前回まではワンちゃんの性格がどのような要素によって形成されるのかをお話してきましたね。
ワンちゃんの性格は、先天的要素(持って生まれてくる犬種的特徴や本能)と、後天的要素(生まれてから私達との生活の中で得た経験から学ぶ)から性格は形成されるとお話しましたね。
当然、生まれもっている部分に関しては、飼い主さんが関与することはできませんが、生まれてから一緒に暮らす数十年で飼い主さんがワンちゃんに経験させてあげられることはとてもたくさんあります。そして、ワンちゃんは日々の生活の中から本当にたくさんの事を学び、それは性格形成に大きく影響します。
前回、犬の学習理論について図[1]でご説明しましたが、 ワンちゃんはこのように行動した結果、自分にとってプラスになることが起きれば、その行動を繰り返す ようになります。
逆の場合も同じ理論です。行動した結果、自分 にマイナスな事が起これば、その行動=損をする と考え繰り返さなくなる、図[2]という仕組みです。
この仕組みは、トレーニング用語でオペラント条件付けと言います。犬の学習の基本はこのオペラント条件付けによって行われます。
オペラント条件付けには、全部で4つの方法があります。
1.正の強化
望ましい行動を始めたら、すぐ楽しいことをする。
2.負の罰
望ましくない行動を始めたら、すぐ楽しいことをやめる。
3.正の罰
望ましくない行動を始めたら、すぐ不快なことをする。
4.負の強化
望ましくない行動をしている最中ずっと不快なことをして、行動をやめたら、不快なことをやめる。
ここで、お家でワンちゃんにトレーニングする際に大切にしていただきたいのはこの4つの条件のバランスです。お家でのトレーニング方法を選ぶ際に、この4つの方法のバランスが偏ってしまっていないかを確認しながら選んでみてください。
オペラント条件
上の図のようにお家でのトレーニングでは、極力、正の罰・負の強化にあたる不快なことをしない方法を選ぶことをお勧めします。
もちろん、褒めることも怒ることも両方時には必要なのですが、褒めて良いところを伸ばす習慣づけをすることは、怒って行動を制御する習慣づけをすることより、飼い主さんにとっても、ワンちゃんにとっても、よりストレスの少ない楽しい生活を送るのに適していると思います。
それから、皆さんに何より知っておいていただきたいことは、怒る=不快な刺激を与えるトレーニングには、いくつものリスクがあるという事です。
叱るトレーニングのリスク
まず言っておきたいことは、叱る=不快な刺激を与えることも時には必要であるという事です。
ただ、その場合はいくつかの判断を慎重にしていただいた上で行う事をお勧めします。
・「不快な刺激」として何を用いるか
プラスの報酬もマイナスの刺激も何を用いるかはとても大切なポイントです。瞬間的にワンちゃんに伝わりやすく、かつ過剰に不快な思いをさせない事が大切です。叩いたりして、痛みを与えれば、ワンちゃんは恐怖を感じ、飼い主さんに警戒心を抱くでしょう。食事を与えない、散歩に行かないなども、伝わりづらい上に健康を損なうような行為なので問題外です。
プロのトレーナーさんであれば、その時の状況やワンちゃんの性格、マイナスの刺激を与えた時の反応などを十分に考慮した上で、様々な刺激を用います。でもお家で行うトレーニングでは、無視をするか、目まっすぐ見て低い声でハッキリ「いけない!」と伝えるなどをお勧めします。無視をする時は目をしっかりとそらし、飛びつきなどへの対応であれば、背中を向けたり、その場から黙って去ってください。それだけでも、飼い主さんの事が大好きなワンちゃんにとっては十分な「不快な刺激」なります。
それから、ついやってしまいがちなのですが叱る時にワンちゃんの名前を呼ばないでください。叱る=名前のイメージをつけてしまうと、日常的に飼い主さんが注目してほしくてワンちゃんの名前を呼んだ時にワンちゃんにはマイナスのイメージで聞こえてしまいます。名前は褒める時、注目してほしい時など「プラスの報酬」の時のみ使いましょう。
・正確なタイミングで不快な刺激を与えられるか
不快な刺激を与えるタイミングは間違った行動をしている最中が良いでしょう。タイミングを間違うと、何に対しての罰なのかがわからず、ワンちゃんを困惑させてしまいます。ワンちゃんには、「さっきのあの行動は悪かったよ」と後から伝える事はできません。ですから、生活の中でしっかりとワンちゃんのことを観察して、伝えたいタイミングを逃さないようにしてあげてくださいね。
・その行動は不快な刺激を与えることにより改善可能な行動か
むやみに不快な刺激を与えることは大変危険です。例えば、強い本能から起こった行動や体調不良から起こった行動、恐怖心や警戒心から起こった行動などに関しては、不快な刺激を与える事は完全に逆効果です。見極めが難しい場合はこの方法を用いないことをお勧めします。
・飼い主がリーダーとして認められているか
飼い主さんがリーダーとして認められているかは、トレーニングをするうえでとても大切なことですが、リーダーとして認めていない存在から不快な刺激を受けることで不信感を抱いてしまう事があります。一緒に暮らし始めて間もなく信頼関係ができていない場合は特に注意が必要です。
・その犬が、行動を抑制されることに対応できるか
犬種特徴や本能の話の中で服従性と言う言葉が出てきましたが、ワンちゃんによっては服従性の低い、つまり人に行動などを抑制されることを苦手とする場合があります。そういったタイプのワンちゃんを不快な刺激によりトレーニングすると強くストレスを感じて反発してしまう事があります。
以上のような点を、しっかりと見極めてから行わないと、叱ったり罰を与えるトレーニングは、時に飼い主さんとワンちゃんとの信頼関係を壊す原因となってしまう事があります。そして、その見極めはとても難しい場合があります。
それから、ワンちゃんの問題行動というのは特に飼い始めてまだまだお互いの事を深く知らない時期に多く感じるものですよね。そんな時は焦ってトレーニング初めてしまいがちですが、ワンちゃんが飼い主さんの事をリーダーとして認めていない時に叱るトレーニングをするのは危険です。以前にお話しした通りワンちゃんには自分の身をストレスや危険から守る本能が備わっています。リーダーではない人に著しくストレスをかけられるようなことがあれば、ワンちゃんは飼い主さんに不信感を抱き、場合によっては「自衛本能」から牙をむいて自分を守ろうとするかもしれませんね。そして、それは良い関係作りをとても困難なものにしてしまうでしょう。
以前聞いた話ですが、「飼っているボーダーコリーが攻撃的だった為、服従のポーズである仰向けのポーズを強制的に繰り返した結果、さらに攻撃的になり一切触らせてくれなくなった」という例がありました。
そのワンちゃんはきっと信頼関係の成り立っていない関係の飼い主さんに強制的に服従を求められ、さらに不信感を強く持ってしまったのでしょう。
まとめ
リスクの高い「怒るトレーニング」に対して、「褒めるトレーニング」の場合は方法によって効果に差が出ることはあっても、飼い主さんとワンちゃんの信頼関係を修復できないほど著しく壊してしまうことはほとんどないでしょう。
ですから、私はお家でのトレーニングは褒める事を中心とした方法を選ぶ事をお勧めします。
小さな間違いから、飼い主さんとワンちゃんとの信頼関係が崩れてしまうような事が出来るだけおこらないようにしたいからです。
次回は、リーダーシップについてと、環境整備についてお話したいと思います。どちらもトレーニングを成功させる為にはとても重要なことで、健康管理にも深く関係していますので、トレーニングを始めようとお考えの飼い主さんにはぜひご参考にしていただきたい内容です。